H1テキスト

  • TEL03-3353-1211
  • FAX03-3353-4707

〒160-8582 東京都新宿区信濃町35 慶應義塾大学MAP

お問い合わせ

MENU

潰瘍性大腸炎について

潰瘍性大腸炎について

潰瘍性大腸炎について

潰瘍性大腸炎とは炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)のうちの1つとされています。潰瘍性大腸炎は大腸粘膜を直腸側から連続性に病変が連なり、しばしばびらんや潰瘍を形成します。
潰瘍性大腸炎は比較的若年の10代後半から30代前半に発症します。しかし高齢者の発症もまれではなく、経過が長い疾患であるため近年は高齢者の割合も増加しています。日本においては女性より男性の方が発症率が高いといわれています。現在全国で16万人以上の患者がいると推測されています。
原因は明らかなものはわかっていませんが、遺伝的素因が発症に関連しており、それに加えて食事や感染などの環境因子が関与して、腸管の免疫や腸内細菌叢が異常をきたして発症すると考えられています。また喫煙、砂糖の摂取、経口避妊薬、解熱鎮痛剤(ロキソニン等)により潰瘍性大腸炎の発症率が上がることが報告されています。

潰瘍性大腸炎の症状

腹痛、下痢、血便などの症状を呈し、再燃と寛解を繰り返しながら慢性的に持続します。経過中に再燃と寛解を繰り返すことが多く、長期かつ広範囲に大腸に炎症が生じた場合、大腸癌が発生するリスクもあります。
潰瘍性大腸炎のステージは、血便を認め内視鏡でびらんや潰瘍を認める「活動期」とそれらが落ち着いた状態である「寛解期」にわけられ、また病変の範囲によって「直腸炎型」、「遠位大腸炎型」、「左側大腸炎型」、「全大腸炎型」に分けることができます。
重症度は3段階に分けられ、排便回数が1日4回以下で、血便はわずかであり、発熱、頻脈、貧血等がない場合を軽症とします。排便回数が6回以上で著明な血便や発熱、頻脈、貧血が伴う場合を重症とし、その中間を中等症としています。

潰瘍性大腸炎の診断

潰瘍性大腸炎には診断基準があります。
① 血便が続く、またはそのような経験がある。
② 内視鏡検査で腸の粘膜が破壊され簡単に出血する、腸に血液の混じった膿性分泌物が付着している、潰瘍が多発しポリープが多発しているように見える、病変が直腸から連続して存在する。
③ 注腸X線検査で腸全体に粘膜の変化が見られ、潰瘍が多発しポリープが多発しているように見える(偽ポリポーシス)、腸のヒダがなくなる、腸が狭くなり短くなっているように見える。
④ 生検で病期の活動期であった場合に粘膜全体に炎症細胞が浸潤し、その浸潤が腺管内にも認め(陰窩膿瘍)、粘液分泌細胞が減少する。病状が治っているときでも腺管の配列の異常や萎縮が残り、これらの変化を直腸から連続して認める。
そして以下のいずれかを満たす時に確定診断となります。
・②または③、並びに①と④を満たすとき
・②または③、並びに④を複数回満たすとき
・手術検体または剖検検体で肉眼的、組織学的に潰瘍性大腸炎に特徴的な所見を認めるとき
潰瘍性大腸炎の診断および検査については、当院の消化器内科が主に担当しております。当院の炎症性腸疾患を専門とした消化器内科グループがおり。密接な連携を取っております。

潰瘍性大腸炎の治療

潰瘍性大腸炎は免疫の異常により起こる病気です。そのため潰瘍性大腸炎の治療では免疫を制御する薬(5-ASA製剤、ステロイド薬、生物学的製剤、JAK阻害薬など)を使用します。薬物治療については当院消化器内科が担当しておりますが、手術治療が必要となることがあり、密接な連携を取り最善のタイミングを模索しております。

手術適応について

絶対的適応と相対的適応とに分けられますが、いずれの場合も内科医との連携が非常に重要となります。

・緊急手術が必要な場合
大量出血、腸管穿孔、中毒性巨大結腸症など

・待機手術を検討する場合

薬物治療による効果が小さい、または薬物療法による副作用が強い、大腸粘膜に癌が発見された、または癌が発生する危険性が高いなど

潰瘍性大腸炎の手術

潰瘍性大腸炎の手術は、大腸をすべて切除する大腸全摘術を行います。小腸の終わりにある回腸の末端部分で腸を切除し、肛門のすぐ近傍までの直腸までを切除することとなります。切除後は、回腸を使って回腸嚢を作成し、回腸嚢を肛門に吻合します。

手術方法の選択

潰瘍性大腸炎における大腸全摘術は、1期的手術、2期的手術、3期的手術の3つに分けられます。

A.1期的手術
1回の手術で切除および吻合を行い、人工肛門を作成しない方法です。

B.2期的手術
初回の手術で大腸の切除及び回腸嚢の吻合を行いますが、吻合部の安静を図るために一時的人工肛門を作成します。そして、3-6か月の期間をおいてから吻合部の状態を確認し、2度目の手術で人工肛門閉鎖術を行い、手術を完了する方法です。

C. 3期的手術
1回目の手術で結腸のみの切除を行い、2回目で残った直腸の切除および吻合、人工肛門の作成を行い、3回目の手術で人工肛門を閉鎖する、3階の手術に分ける方法です。この方法は大腸の炎症が高度であり、全身状態が悪いなど、長時間にわたり、侵襲度の高い手術が行えない場合に選択されることが多いです。

上記のように、3つの手術方法に大別されますが、 当院では2期的手術を採用しています。

回腸嚢の吻合には2種類あり、大きく①回腸嚢-肛門管吻合と②回腸嚢-肛門吻合に大別されます。
手術方法の選択

① 回腸嚢-肛門管吻合(IACA)
メリット:肛門機能が保たれることが多く、術後のQOLが良い
デメリット:直腸粘膜が残存するため、癌化の可能性が残る

② 回腸嚢-肛門吻合(IAA)
メリット:直腸粘膜がなくなるため、癌化の可能性が最小限に抑えられる
デメリット:肛門機能が低下し、漏便などが見られることが多くなる

上記のようにそれぞれに利点・欠点があります。前癌病変が認められて手術することとなった場合にはIAAを採用しており、そのほかの内科治療抵抗性の潰瘍性大腸炎ではIACAを採用しています。

文献

1. 長谷川 博、 岡林 剛、 鶴田 雅、 etal: 【炎症性腸疾患アップデート-いま外科医に求められる知識と技術】潰瘍性大腸炎の手術手技 潰瘍性大腸炎の手術適応。 臨床外科 73:1334-1338、 2018
2. Uchino M、 Ikeuchi H、 Hata K、 et al: Changes in the rate of and trends in colectomy for ulcerative colitis during the era of biologics and calcineurin inhibitors based on a Japanese nationwide cohort study。 Surg Today 49:1066-1073、 2019
3. 鶴田 雅、 長谷川 博、 岡林 剛、 et al: 【大腸癌腹腔鏡手術の新展開-Reduced port surgeryからロボット手術まで】直腸癌に対する腹腔鏡手術 Reduced port surgeryを中心に。 臨床外科 70:938-943、 2015
4.  岡林 剛、 長谷川 博、 鶴田 雅、 et al: 【炎症性腸疾患の手術治療を極める】腹腔鏡下大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術。 手術 71:133-139、 2017 5.  Ananthakrishnan AN、 McGinley EL、 Binion DG、 et al: Simple score to identify colectomy risk in ulcerative colitis hospitalizations。 Inflamm Bowel Dis 16:1532-40、 2010

Copyright© 慶應義塾大学医学部外科(一般・消化器外科)腸班.
All rights reserved.